Vol:008 きたい くにと ✕ 増尾 好秋

Vol:008 きたいくにと ✕ 増尾好秋

『Chick Coreaから「Return to Forever」に誘われた

くにと: こんな事になってしまって本当に残念なんですが(2021年2月9日にがんのため死去)、Chick Coreaとのお話も聞きたいと思っていたんです。

増尾: ねぇ。本当に残念だよ。実は僕がSonnyとリハーサルする一週間くらい前に、同じスタジオでChickともリハーサルしてたんだ。その時ベースのあいつ…えっと、なんだっけ名前。

くにと: ベースですか?Stanley Clarke…?

増尾: そうそう!(笑)彼と、その時はドラムはLenny Whiteじゃなくて、Steve Gaddだった。それでリハーサルやったんだけど、Chickからその後すぐには連絡が来なかったのね。で、Sonnyからはすぐ仕事があるからやろうよって連絡があったから、僕もすぐお願いしますって入る事に決めたんだけど、それから少ししてChickから連絡があって、「Return to Forever」で一緒にやらないかって聞かれたんだ。でも、もうSonnyのバンドに決めちゃったって断ったんだよ。

くにと: 増尾さんが「Return to Forever」に入ってたかもしれなかったんですね…もうなんだか神話聞いてる気分です…

増尾: いやいやいや。笑 そういう時代だからさ。みんなそういう連中がそこにいて普通にやってたんだよ。それがその頃のニューヨークのジャズシーンだったの。

Power Spot

増尾: あ、話違うんだけどさ、ポンタ(村上 “ポンタ” 修一 / ドラマー)も亡くなったんだって!?

くにと: そうですね(2021年3月9日に視床出血の為死去)。1ヶ月くらい前から入院されていたそうですよ。本当に悲しいニュースが続きますね。

増尾: 僕はポンタとも接触があってね。Power Spotを作る前、10年以上前かな、自分のフュージョンの音楽をやろうとして組んだバンドがあって、PitInnでやったの。そこにポンタもいたんだよ。北海道のツアーなんかもやったと思う。そういうのがPower Spotを作る為の芽だったんだよね。

くにと: 僕がどれだけ偉大な人と演奏させて貰ってるのか改めて実感してます。

増尾: いやぁ、縁があって一緒に演奏する、それには年齢は関係ないし、北井くんも神保くん(神保彰 / ドラマー)に認められてこの世界に入ってきたわけで、僕と一緒だよ。

くにと: そもそも2013年の僕のプロデビューになったあの公演は、最初神保さんにオファーしたんでしたよね。

増尾: そう。あの時はミュージシャンをいろいろ探してて、セッションしてみようと思って神保くんに声をかけたんだよ。前から知ってたからさ。スケジュールは合わなかったけど、そこで北井くんを紹介してもらったわけ。「僕の生徒に素晴らしい子がいるんです。是非使ってあげてほしい」って。

くにと: ありがたいです…

増尾: やっぱり北井くんはさ、今まで僕が一緒にやってきた日本のドラマーと全然タイプが違う。特に僕のジェネレーションとね。昔の話に戻るけどさ、ジャズミュージシャンを集めてくると、その人達の聞いてる音楽がわかっちゃうから、あんまり面白くないんだよね。そういう意味で、北井くんは経験が無いのはわかってたけど、自分と全然違うタイプだったから選んだの。僕が北井くんがいいなと思ったのは、ドラムをコントロールして、綺麗な音で叩けるテクニックを持ってるところ。それで、無垢で、素直な人間だったところ。プレイにしろ、考え方にしろ、自然だった。音楽に「これは嫌だ」「これは嫌いだ」ってクセを持ってる人もたくさんいるじゃない?もちろん僕の中にも好き嫌いはあるしね。でも北井くんはスタイルにこだわらずに、面白いと思う事はなんでも取り入れて音楽を作ろうと思ってるでしょ。そういうミュージシャンが残っていくと思うし、僕が一緒にやりたいと思うミュージシャンなんだよ。

くにと: 本当に嬉しいです。増尾さんに拾ってもらうまで僕の共演者はCDやYouTubeだったのに、いろんな段階をすっ飛ばしていきなり一流のステージに放り込んでもらって。忘れもしない初めてのPitInn、譜面と音源をもらっても、とにかく何がわからないのかがわからない。完成された曲をコピーして音源とと一緒に叩くっていうのはずっとやっていましたけど、頂いた音源とまず編成が違う、リハーサルをすると譜面にもメロディーしか書いてない、リハーサルでは自分の思うようにやっていいよって言われてテンポもダイナミクスも全然違う、一体なにをすれば良いんだ??って。(笑)一週間前くらいから緊張で、口の裏を一周するような口内炎ができちゃって。(笑)

増尾: (笑)それはすいませんでした。(笑)

くにと: いやいや。(笑)

増尾: そうだよねぇ。北井くんが悩んでるのもわかったし、香菜ちゃんが困ってるのも見えたけど、僕はもうしらばっくれて、とにかくなんでもやっちゃえー!って思ってた。(笑)

くにと: やっぱり音楽って、準備してあげて、手取り足取り教えて、間違いを訂正して…ではないじゃないですか。あの時、僕なりに自分で考えてやってみて、結果怒られたっていうところまでセットで、本当に良い経験をさせて貰えましたし、ミュージシャンとして最高のスタートをきれたなと思います。

増尾: そうだね。結局、死ぬまでそれの連続だよ。自分を磨いて磨いて、どれだけ音楽を豊かに作れるか。特にジャズは自由であるかわりに、普段の精進が全部出るからね。それを一生続けなきゃいけないと思うと、なかなか楽しいキリのない人生だなって思うよ。飽きるなんて事ないしさ、僕なんて未だに練習しなきゃいけないこと山積みだし。僕は最近いろんな人とやるじゃない、特にデュエットとか。一人一人音楽のやり方も曲のセレクションも違うから、僕が普段全然やらないような音楽もいっぱいある。でもやるからにはその音楽に深く入っていって、研究していろんなことを学ぶんだよね。そうすると今まで関心が無かったことまで関心が出てくるの。それこそ最近までChick Coreaの曲なんてやる事全然なかったんだけど、自分で練習してみると、あぁなるほどね、こういう演奏のしかたがあるのか、って。自分なりに理解して、それを普段の練習に取り入れていってみる。それだけで自分の演奏が変わっていくんだよ。面白くてしょうがないね。(笑)

くにと: 僕はもともと音楽は神保さん、CASIOPEAしか聞いてなくて、それ以外好きも嫌いも無かったところから、増尾さんと小曽根さんに出会ってジャズの世界に入っていったんですが、Power Spotの頃はまだ「ジャズ」苦手だったんです。スイングできなかったし。

増尾: Art Blakeyも知らなかったもんね。(笑)

くにと: はい。(笑)初めてArt Blakeyの「Night In Tunisia」を聞いた時仰天しましたもん。これデタラメじゃないの…?って。(笑)

増尾: (笑)

くにと: 四分音符はどこなんだ…?って。楽器のチューニングも今まで聴いてきた現代のドラムとはかけ離れてるし。「こんなのの何がいいんだ」ってジャズ一筋の大学の同期と喧嘩みたいになりましたもん。(笑)今聞いたら全くそんな風には思わないんですけどね。

増尾: おっかしいねぇ。(笑)

くにと: でもその時の感覚も大事だったなと思いますね。

増尾: ジャズの世界って、有無を言わさず進んでいっちゃう人に必死についてく、なんて事たくさんあるもんね。まぁでもリズムは正確なら正確な方が良いよ、やっぱり。笑

MAGATAMA

くにと: 僕は増尾さんと小曽根さんとの出会いでジャズや音楽の面白さを見つけることができて、ここまでやってこれたんですが、最近はまた自分のルーツに近いドラムが叩きたいなと思っていて、それで2年ほど前からサポートしていたCalmeraに今年から正式加入する事にしたんです。

増尾: そうか。北井くんは広い範囲で音楽をできるというか、ドラムの上でそれだけいろんな事が自由に興味を持ってできるのが本当に健康的だと思うよ。

くにと: それとは逆に、でPower SpotからMAGATAMAになって、増尾さんのバンドでは以前よりトラディショナルなジャズをプレイするようになってきていますが、何か狙いがあったんですか?

増尾: Power Spotでは「Sailing Wonder」の頃の僕の曲をやっていたけど、やっぱりあの時の音楽はあのメンバーと作ったものだから、テクニックとかじゃなくてね、その人に向けて作った曲だったりするからさ、再現には限界があったんだよ。だから昔を思い出しながらやっててもしょうがないなと思って、一度Power Spotは終わりにしたわけ。それで新しくまた始めようと考えてた時に幹子ちゃん(永武幹子 / ジャズピアニスト)と出会ったんだよ。最初のリハーサルでは香菜ちゃんの代わりとしてキーボードも弾いてもらってたと思うんだけど、ベースはもう塩田くん(塩田哲嗣 / ベーシスト)だったよね。

くにと: そうでしたね。PitInnのスタジオで。

増尾: それで幹子ちゃんのピアノが素晴らしかったから、もうキーボードにこだわらなくていいなって思ってさ。これならもっとアコースティックな感じで、ベースもエレクトリックじゃなくやってみようと思って、そこから、MAGATAMAが始まったんだよ。

くにと: なるほど。次はジャズをやろう、っていうコンセプトだった訳じゃなくて、出会ったプレイヤーと音を出して、自然にこうなってきてたんですね。

増尾: そうだね。僕は「ジャズ」っていう言葉で説明するのはあんまり好きじゃないからさ、確かにそういう音楽になってはきているけれど、あくまで自然な事なんだよね。

くにと: バンドについて、当時の僕は食らいつくのに必死だったので、初めてちゃんと聞けた気がします。

増尾: あの時からフィーリングの意味でもボリュームの意味でもバンドが一気に変わって、北井くんすごい大変だったでしょ。

くにと: 結構な変化でしたもんね。(笑)

増尾: 大変化だったね。苦労をおかけしました。(笑)

くにと: いやいや。(笑)今後のMAGATAMAで決まっている動きはありますか?

増尾: これからMAGATAMAのアルバムを作りたいと思ってるよ。

くにと: わー!ついに!!

増尾: それも、スタジオに入ってブースで録るんじゃなくて、これから可能な限りライブを全部録音していこうと思ってるんだよ。

くにと: ライブレコーディング…!

増尾: そうそう。やっぱりライブが一番自然だと思うし、スタジオでちゃんとしたものを作るっていうのも良いと思うんだけどさ、そうじゃない自然にできるものの良さを僕は追求していきたいなと今思ってるんだよ。ミステイクがあってもいいと思うし、そういう意味のパーフェクトなものを求めるんじゃなくて、人間が作る…良いフィーリング。そういうのが詰まった音、生きた音楽を録れたらいいなと思ってます。

くにと: 今回は長い時間本当にありがとうございました。増尾さんと18歳の時に出会ってからもう8年も経ちますけど、初めてこうやってゆっくりお話しできて本当に嬉しかったです。

増尾: そうか。ありがとうね。これからもよろしくね。