Vol:008 きたい くにと ✕ 増尾 好秋
米50年の世界的ジャズギタリスト増尾好秋さんに、なかなか聞けないアメリカのレジェンド達とのエピソードを伺い、僕のデビュー当時の思い出を改めてお話しさせて頂きました。
Introduction
増尾: なにそれどうなってるの?
くにと: スマホカバーです(笑)僕おっきいの好きで。これでも小さくなったんですよ。
増尾: そんなのあるんだ。おっかしいね~(笑)
くにと: お気に入りです。(笑)僕、昔からライブの事Twitterで呟いてたんですけど、検索してみたら懐かしいのいっぱい出てきましたよ。僕が初めて増尾さんと演奏した2013年11月5日、新宿PitInn夜の部。僕のプロデビューの日です。「Power Spot Trio」の名義でしたね。
増尾: 懐かしいねえ。あの時はベースが決まってなかったから、香菜ちゃん(黒瀬香菜 / オルガニスト)とのオルガンTrioだったね。
くにと: そして2014年3月20日に「いよいよ明日からPower Spot始動です!」とツイートしてます。
増尾: そうか。で、バカボン(バカボン鈴木 / ベーシスト)だっけ?
くにと: そうです。最初のベースはバカボンさんでした。
増尾: それで、その次が箭島くん(箭島裕治 / ベーシスト)か。ベースはその2人だけだったっけ?
くにと: いや、箭島さんの後に少しだけJINOさん(日野 “JINO” 賢二)も弾いてましたよ。
増尾: それは四国のツアーだったよね?
くにと: 六本木Alfieでのギグもありました。
増尾: あぁそうだったね(笑)すっかり忘れてる。
くにと: 僕の最初の仕事は"ナナカマド"みたいな名前の居酒屋さん?でしたよね?
増尾: そうだ。ななかまど。あのギグはよく覚えてるよ。あそこは僕の大学の後輩の店だったんだ。
くにと: Power Spotの音楽は、いわゆる『フュージョン』のスタイルでしたよね。
増尾: その頃僕はそれ(フュージョン)をやるつもりでいたからね。
くにと: 大変失礼な話なんですが、最初にお話を頂いた時は増尾さんの事を知らなくて、最初に増尾さんから送って頂いた資料の「Sailing Wonder」の参加ミュージシャンを見て驚愕しました。Eric Gare(g)、Richard Tee(p)、Steve Gadd(ds)…もう「Stuff」じゃないですか(笑)加えてDave Grusin(syn)、T.M.Stevens(bs)…
増尾: その録音の時はSonny Rollinsとのピリオドが1つ終わった頃で、ジャズじゃない自分のバンドをやりたかったんだよね。1977年だったかな。僕がアメリカに渡った最初の頃は、ロック的なというか、そういうジャズじゃない方向のギターに魅力を感じててそっちの方に行ってたんだけど、Sonnyのバンドをやることによってまたジャズの方にぐっと戻ったんだよね。それは本当に素晴らしい経験だったし、自分がなによりやりたかった事だからね。で、Sonnyのバンドを辞めて自分で何かやろうと思った時に、ジャズミュージシャンを集めてやると、ちょっと違う事をやろうと思ってもあんまり面白く発展しないというか。その頃の若いミュージシャンは、今までのジャズじゃない、もっとエレクトリックな事をやろうとしてた時期だったから、例えばChich Coreaは「Return to Forever」始めてはじめ、Herbie Hancockは、…
くにと: 「Head Hunters」ですかね。
増尾: そうそう。「Head Hunters」のアルバム出したりとか、「Weather Report」とかも、みんなだよ。そういう時だったから、僕も今までのサウンドとは全然違うものをやりたかったから、そういう意味で「Sailing Wonder」の彼ら(Stuffのメンバー)とのレコーディングは凄く面白かった。
Sonny Rollinsバンドへの加入
くにと: なかなかゆっくりお話する機会もなかったので、改めてSonny Rollinsとの事も聞きたいです。
増尾: 僕の前はギターのJim Hallがいたんだけど、普通ああいうジャズのワンホーンのバンドにはピアノだから、ギターでやってるのは彼ぐらいしかいなかった。僕はその頃、渡辺貞夫さんのバンドでやってて、ギターでバンドをフォローするのに、Jim Hallのプレイを物凄く参考にしてたんだよ。だから、そのSonnyの音楽には慣れてたんだけど、レコードで聴いてたそこにそのまま自分が入るんだから、凄い事だよ。(笑)
くにと: 凄い事ですよね。Sonnyとの演奏で印象的な事を一つ挙げるとしたら、…
増尾: 僕がいつも北井くんに言ってる「グルーヴ感」。それが凄く気持ちよくて、一緒にやると「あっ、なるほど!」ってわかるんだよ。そのリズムを経験する事ができたって事かな。良いバンドには良いリズムがあるんだよ。
くにと: 渡米してすぐにSonny Rollinsのバンドに入ったわけではないですよね?どうやって辿り着いたんですか?
増尾: どうやってその世界に入って行くかなんて、ルールは何も無いからさ、とにかくいろんな人が演奏してるクラブに行くわけだよ。そこで上手くいけば一緒に演奏させてもらえるし。僕は渡米前にたまたまSarah Vaughanの伴奏で来てたElvin Jonesバンドのメンバーと東京で会ってたんだけど、その時連絡先を交換してたベーシストに連絡したら、「Elvinのレコーディングがあるから来い」って言われて。
くにと: Elvin Jonesが登場するんですね…(笑)
増尾: そう。リハーサルもなんにもないんだよ?それでとにかく言われたスタジオに行ったら、Elvin Jonesのドラム、キーボードに、Chick Coreaがいたな。ホーンは4人くらいで、彼のスタジオじゃなかったけどエンジニアはRudy Van Gelderだったよ。
くにと: えー!!さらに情報が増えてきましたね…!
増尾: そこで僕がプレイしたものがちゃんとレコードになったんだよ。Elvinの「Merry Go Round」っていうブルーノートのレコード。もしかしたらブルーノートのレコードに日本人が参加したのはこれが初めてかもしれないね。
くにと: 渡米直後から凄まじい活躍ですね…。
増尾: そうだね。そうやって知り合いが増えていって、ある時友達が「そのうちSonny Rollinsから電話があるかも」なんて言ってきて、はいはい~なんて適当に返事してたんだけど本当に電話がかかってきて。(笑)それでスタジオで一緒に音を出すことになった。僕が25,6の時だね。
くにと: 今の僕と同じ年齢ですね…!そうするとSonnyも若いですよね。おいくつくらいだったんでしょうか。
増尾: 今彼はちょうど90歳だから、大体50年前、40歳くらいだろうね。
くにと: 時間のスケールが大きいですね。(笑)リハーサルは何か譜面があったりしたんですか?
増尾: いやいやいや、譜面なんかないよ。あんまり知らない曲もあったからさ、その時Bob Cranshawのベースを一生懸命聴きながらついていったよ。
くにと: Sonnyの第一印象はどうでしたか?
増尾: アメリカで知り合ったミュージシャンはみんなそうなんだけどさ、凄くフレンドリーで、相手を緊張させるような雰囲気もなくオープンに音楽の中に入れてくれたんだよ。凄く温かいフィーリングだった。
くにと: 僕にとってはもう生で演奏を見る事はできないでしょうから、教科書に載っている様な存在なので、実際に一緒にプレイしていた方の話を聞けて、当たり前ですけど改めて本当にこの世界に「いる」んだなって。
増尾: 確かにレコードとかで聴くだけだと、ばーっと凄いことだけ毎日やってる人って思うかもしれないけど、その裏ではさ、Coltraneが出てきて一時期演奏やめちゃったり、閉じこもって音楽を探して、橋の下でずっと練習したり、音楽に対して全力でやってるから凄く深いよ。でも、彼も上手くいかない時もあるし、緊張する時もあったから、僕達と同じ人間なんだよ。
くにと: 今はもう楽器は吹いてないんですよね。
増尾: そうだね。でも3年くらい前に彼に会いにいったんだけど、元気そうで顔もハッピーだったし、精神的にもすごくリラックスしてた。彼の中では用意ができて、次の段階にいくってことも全然怖くない、未練は無いんだって話してくれたよ。